ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から

Posted on March 9, 2023 by 8ssou
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人間は一本の葦にすぎない。自然の中でも最も弱いものの一つである。しかし、それは考える葦なのだ。

パスカル in 断章347, パンセ

なんとなくそうなんだろうなーと説得力のある言葉の一つが考える葦であり、そう信じている人も多いと思う。まぁ葦がもつ暗喩の定義いかんで意味が変わってきそうだけど、多分柔軟性とか成長とかそういった意味は少なくとも持つはずじゃないか。で本書は、そんな格言のとおり人間は思考に柔軟性があって論理的な取捨選択をしているわけではなく、自分が理解できる範囲で自分にとって都合が良い選択を思考においてもしがちである、と言う話をアメリカ社会での宗教・懐疑論が絡み合った一大反科学ムーブメントが表出した例であるトランプ政権樹立を背景として調査やインタビューを交えて示している。しかも(一見理性的・合理的そうな)計算能力の高い人ほど思考の凝り固まりが見えるという。かくして(民主主義的で自由主義的な)世界では右と左の二極化が進んで分断が加速しましたとさ。

でもまぁ感情が先立つっていうのはまぁわかる話で、自分自身信じたいもの信じて生きているという感覚は正直(個人的にだけど)ある。実際、最初は地球温暖化も気候変動が主因じゃないかなぁ、なんて思ってたときがあって、よくよく思い返してみると自分の知識だけで推し量っていたことがそもそもの問題だったわけだけど、でもその主張だって別の視点であるそうした知識しかない世界ではそれが正しいんだよね。そこで、いや正しい知識や新しい情報をどんどん吸収してアップデートすべきでしょ、なんて正論言われても、正直世の中意識高い人だらけじゃないんだから、知識を受け入れることに対する精神的なコストを低く見積もりすぎてるとしか言いようがない。加齢と共にこれは特に感じることで、やっぱり容易な思考に逃げがちになるよなって、最小抵抗経路選ぶよ、そら。だから、(ベストな方策ではないけども)社会が自由である限りいろんな考え方の人を受け入れる素地が社会の一構成員からすると必要だよなぁとは思う。もちろんそうした人と断絶するのも当然アリだよ。

あと科学も宗教だって、誰が言ったか知らないけどもまぁその側面はあると思っていて、そもそも、反科学的な文脈で宗教が語られる題材のこの本ですら、科学の無びゅう性についての盲目さが鼻につく様な書き口の箇所がいくつかあるんだもの。科学で扱う話はあくまで科学で定義したドメインの範囲での話であって、そのドメインを飛び出した先の可能性が消え去るわけではないんだしさー、なんかなーってのはね。ある種の革新的な思想の人たちが振りかざしがちな理想論に触れている感じ。とまぁ、創造科学、ID説と変化を遂げてきた創造論さながらの擁護をしてみたけど、これも一つのアメリカンスピリットとしての反権威主義と合致しているから、保守的な人の思考もこんな感じなんだろうな。すごくメタいね。

何が正しいのか正しくないのか信仰の衝突をどうすべきなのか、この本を読む限り、科学的世界観の勢力の軍門に下るのが良いと読み取れる。個人的には、共存の道を示してもらいたかったがまぁ無理だよな、人類総インターネット時代においてエコーチェンバーやフィルターバブルから逃れることは難しくどちらの勢力も思想の先鋭化が著しいものね。同質化しか許されない現状においてなんとか良いものは良い、悪いものは悪いと言える世の中になることを適当に祈っておこう。

余談だけど、本書を読んでるとアメリカ国民の基督史観と信心の高さよくわかるので、そうした国民性が(過去に)世界の警察を継続できていた理由なのかもしれないな、なんて思ったりしました。